ARTIST
ART PROGRAMアートプログラム部門

大小島真木 Maki Ohkojima
胎海──海を孕む、海に孕まれる
夢を見ていた。海のなか、海に孕まれて。
私は魚のようだった。しかし次の日には私は蜥蜴(とかげ)のようだった。
夢? いや、あれは夢ではない。記憶だ。
私は覚えている。遙かなる生命の旅路、あの風景を。
私は見知っている。三十八億年に及ぶ、進化のおもかげを。
海を孕んだ輩――、解剖学者の三木成夫はヒトを含む哺乳類の生態をそのように言いあらわした。三木によれば哺乳類の羊水の成分は太古の海水の成分によく似ているという。
哺乳類が海から出てて陸地で生きるためには生命の源たる海水を海中から胎内へと輸出する必要があったのだ。
運び出したのは海水だけではなかった。三木によれば、魚類、両生類、爬虫類とめまぐるしく形態を変化させる哺乳類の胎芽は、母の胎海(はらわた)で微睡(まどろ)みながら、悠久の生命進化の記憶をたった数日のうちに追体験しているという。
そう、私たちは海水と一緒に太古の海の記憶をも運び出していたのだ。
哲学者のエマヌエーレ・コッチャは「植物は海が存在しない場所に海をしつらえたのである。世界を巨大な大気の海に変え、あらゆる生物に海洋での習性を伝えていったのだ」と書いている。
植物たちの息吹たる大気に満たされ、オゾンという羊膜に包まれたこの大地もまた、私たちの生と死を育む、ひとつの胎海なのかもしれない。
旧塩屋小学校、海にくるまれた小さな校舎で、私たちを孕み、私たちが孕んでいる胎海を、想う。
展示会場
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大小島真木 Maki Ohkojima
PROFILE
異なるものたちの環世界、その「あいだ」に立ち、絡まり合う生と死の諸相を描くことを追求している。 インド、ポーランド、中国、メキシコ、フランスなどで滞在制作。2014年にVOCA奨励賞を受賞。 2017年にアニエスベーが支援するTara Ocean 財団が率いる科学探査船タラ号太平洋プロジェクトに参加。 2021年「ククノチテクテクマナツノボウケン」KAATで舞台美術を手がける。 主な展覧会に、「コレスポンダンス」(2022年、千葉市美術館 | つくりかけラボ)、「地つづきの輪郭」(2022年、セゾン現代美術館)、「Re construction 再構築」(2020年、練馬区立美術館)、「瀬戸内国際芸術祭-粟島」(2019年)、個展「L’oeil de la Baleine/ 鯨の目」(2019年、フランス・パリ水族館)
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【Guest Curator】伊藤悠 Haruka Ito
PROFILE
PROJECT ATAMI総合ディレクター。アイランドジャパン株式会社 代表取締役。
1979年滋賀県生まれ。京都大学法学部卒業。人間・環境学研究科 共生人間学専攻修了。
京都芸術大学芸術編集研究センター、magical, ARTROOMディレクターを経て2010年islandをスタート。
ギャラリーの経営、アーティストのマネジメントから、六本木アートナイトや寺田倉庫、ACAO SPA & RESORT、108 ART PROJECTなど外部企画のコーディネートやプラニングなど、アートと社会を橋渡しする活動をおこなう。
早稲田大学文化構想学部でアートコミュニケーションを教える。