毎回、個人的にもやんばるアートフェスのビジュアルを楽しみにしてきたファンのひとりとして、前回に引き続き、デザインを担当できることを光栄に思い、8回目となる今回のビジュアルを思うとき、テーマである「山原本然」の通り、流れのまま永遠にその自然の営みがつづいていくイメージにそむかず、前回イメージした印象を引き継いた発想で考えてみようと思いました。前回同様、美しいやんばるの写真とコンピュータを使わずに何枚も筆書きしたもの。そのライブ感の中から偶然生まれた形で、本フェスのイメージを表しました。そして、まだ見ぬ次回のイメージも合わせて抱きながら。描いているうちに顔になり、文字が表情となりました。やんばるからのインスピレーションで浮き出てきたひとが、アート作品表現をひとつひとつ感じ見る。やんばるに足を運ぶみなさんと、より深く対話したい。そんなイメージです。
沖縄本島の北部に位置するやんばる地域を舞台に、初回から一貫して現代作家との協働とその実践をテーマに取り組んできた「やんばるアートフェスティバル(YAF)」も8回目を迎えます。開催を続ける中で、私自身のYAFに対する意識も少しずつ変化し、近年では美術大学という研究教育機関が芸術祭でできることを意識しながらディレクションを考えるようにもなりました。
まずは、研究という視点を芸術祭に取り入れること。一部の参加作家は初期のYAFから、現地調査を作品制作に繋げる試みに取り組んでいましたが、そのプロセスを美術の実践としての学術的研究と捉え、作品として発表するだけでなく研究成果として記録していく。そして、沖縄に頻繁に足を運ぶことで生まれた現地の美術工芸に対する自身の興味を研究の対象とし、その成果を展覧会の形で発表する。するとYAFは新たな視点で沖縄地域を見つめ直すきっかけとなり、その視野は沖縄本島から八重山地域にまで広がります。
さらに複数の海外からのキュレーターとの協働を進めることで、世界の中での沖縄を意識し、既定の美術史に新たな視座をもたらす可能性も見えてきました。 国内外の様々なキュレーターとの連携により、更に多くの国や地域から現代美術や工芸がやんばるに集う今回のYAF、新たな世界の広がりと、日常とは少し異なる作家独自の視点を体感できる芸術祭に是非お越しください。
今回のテーマである『山原本然』の「本然」とは、「本来あるべき元々の姿」という意味だそうです。では、世界遺産にも登録されたやんばるの自然は、果たしてその本来の姿を今も保っているのでしょうか。
そのような問いを抱えながら、11月にやんばる地方を襲った沖縄北部豪雨では、断水や停電、土砂崩れ、川の氾濫による浸水など、自然災害がもたらした甚大な被害を目の当たりにしました。この災害で被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。
さて、やんばるアートフェスティバルは今年で8回目を迎えます。長年続ける中で、奇跡のように嬉しい出来事が生まれることもあります。たとえば数年前、クラフト売り場で「やちむん作家になりたい」と相談された方が、年月を経て成長を遂げ、今回の選出作家の一員となったこともその一例です。
今年は、やちむん、硝子、木工、藍染、漆芸、芭蕉布、アクセサリー、オブジェなど、多彩な分野から22名の作家を選出しました。それぞれが心血を注いで制作した素晴らしい作品を、より多くのお客様にお届けするべく、私たちも全力で取り組んでまいります。
伝統とモダンが融合した選りすぐりのクラフト作品を、「YAF CRAFT MARKET」にてご覧いただけます。やんばるの自然と共鳴するクラフトの世界を、ぜひ心ゆくまでご堪能ください。
山原本然
「然」とは、
そのとおり、 そのまま、そうあること
「本然」とは、
本来あるべき元々の姿、という意味です。
「やんばるアートフェスティバル」 の歩みを振り返ると
この7年間、世界も世間も激動の波に揺さぶられ続け、
その余波は、ここやんばるにも大なり小なり及んでいます。
どんな物事も変わっていくことは必然ですが、
これからどんな時代が訪れたとしても
やんばるが、やんばるのままであり続ける限り、きっと大丈夫。
そんな不思議な確信があります。
本芸術祭を通じて、やんばる本然の自然、暮らし、文化が持つ
ありのままの美しさと、奥深い創造の世界をお楽しみください。
琉球・沖縄のアルカイックな陰翳美と色彩感覚をテーマに、写真、デザイン、映像、カリグラフなどジャンルにこだわらない自由な表現活動を行う。主な作品は「すでる ~原琉球のメタモルフォーゼ~」(やんばるアートフェスティバル2018-2019)、「スデル・うまれかわる」(京都国際映画祭2019アート部門)、島猫映画「 Nyaha!」(2018年)、西表島の自然と暮らしをテーマにしたドキュメンタリー映画「Us 4 IRIOMOTE〜生生流転」(2021年、YouTubeにて公開中)。